■ 【しあわせの手紙】 「最高のママ」


    もう10年も前の話。
    妻が他界して1年がたった頃、当時8歳の娘と3歳の息子がいた。
    妻がいなくなったことをまだ理解できないでいる息子に対して、
    私はどう接してやればいいのか、父親としての不甲斐なさに悩まされていた。

    実際私も、妻の面影を追う毎日であった。
    寂しさが家中を包み込んでいるようだった。
    
    そんな時、私は仕事の都合で家を空けることになり、
    実家の母にしばらくきてもらうことになった。

    出張中、何度も自宅へ電話をかけ、子供たちの声を聞いた。
    2人を安心させるつもりだったが、心安らぐのは私のほうだった気がする。
  

    そんな矢先、息子の通っている幼稚園の運動会があった。
    “ママとおどろう”だったか、そんなタイトルのプログラムがあり、
    園児と母親が手をつなぎ、輪になってお遊戯をするような内容だった。
 
    こんなときにそんなプログラムを組むなんて・・・

    「まぁ、行くよ ♪ 」 娘だった。 
    息子も笑顔で娘の手をとり、二人は楽しそうに走っていった。
    一瞬、私は訳が分からずに呆然としていた。 
 
    隣に座っていた母がこう言った。

    あなたがこの間、九州へ行っていた時に、
    正樹はいつものように泣いて、お姉ちゃんを困らせていたのね。

    そうしたら、お姉ちゃんは正樹に、

    「ママはもういなくなっちゃったけど、お姉ちゃんがいるでしょ?」
    「本当はパパだってとってもさみしいの、」
    「だけどパパは泣いたりしないでしょ?」
    「それはね、パパが男の子だからなんだよ。まぁも男の子だよね。」 
    「だから、だいじょうぶだよね?」
    「お姉ちゃんが、パパとまぁのママになるから。」 

    そう言っていたのよ。

    何ということだ。
    娘が私の変わりにこの家を守ろうとしている。
    場所もわきまえず、流れてくる涙を止めることが出来なかった。

    10年たった今、無性にあの頃のことを思い出し、また涙が出てくる。
    来年から上京する娘、おとうさんは君に何かしてあげられたかい?

    君に今、どうしても伝えたいことがある。
    支えてくれてありがとう。君は最高のママだったよ。
    私にとっても、正樹にとっても。 

    ありがとう。



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