■ 【しあわせの手紙】 「愛犬」
 
     
    死ぬ前の半年間、自分はろくに家に帰ってなくて、 世話もほとんどしなかった。
    その間にどんどん衰えてたのに、 あまり見ることも触ることもなく、その日を迎えてしまった。 
    前日の夜に、もう私とはほとんど会話がなくなっていた母が、兄と一緒に私の部屋にきて 
    
    「もう、動かなくなって、息だけしてるの。目も、開いたままとじれない。
     最後だから、お別れしてきなさい。」と泣きながら言ってきた。

    そこまでだったなんて知らなくて、びっくりして下に下りていったら、コタツに横たわってた。
    ほんとに息だけしかしてなくて、だんだん息も弱くなってるのがわかった。
    
    怒りっぽい犬で、触るだけで唸るのに、その日は、なにも反応がなかった。
    母と兄と、3人で、泣きながら朝まで見守った。
  

    結局次の日、単身赴任の父が帰ってきてすぐ息を引き取った。
    父のことが大好きだったから、きっと待ってたんだと思う。
    家族全員そろうのを待ってたんだなって思う。
    死ぬ間際に飲んだ水はすごくおいしかったよね。幸せだったよね。

    なによりも、本当にろくに家に帰らず遊んでばかりいて、
    あなたの世話をしていなかったことを悔やんでる。 

    父も母も兄も泣きじゃくる中、あたしは後悔ばかりが心に残って、あまり泣くことも出来なかった。
    おまえが死んでから、おかあさんとも会話するようになったよ。
    今まで、おかあさんの話し相手はおまえだったもんね。
    おまえのおかげで自分がどんなに親を悲しませてたかわかった。
    犬にまであたしのこと相談するくらい、おかあさん悩んでたんだね。

    おまえが死んでふさぎがちだった母も最近元気になったよ。安心して眠ってね。 

    昨日、死んでから初めてあなたの夢を見ました。 

    朝起きて、泣きました。

    ほんとうにありがとう。ばいばい。 






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