■ 【しあわせの手紙】 「係長」


    これはオレの上司の係長の話。

    オレは今の職場(の今の係)に採用されて3年目の若造。
    採用一年目の時は、オレの話など聞く耳もたず、何をそんな次元の低い話をするんだ、
    みたいな態度だった。

    この係は3人いて、係長、オレと、もうひとり先輩がいて、
    ほとんどその先輩でもっているような係だった。

    2年目になってその先輩が異動になってしまい、
    その先輩がやっていた仕事をすべてオレがやることになった。

    もちろんオレは1年ですべてを吸収できるはずもなく、
    あれこれ試行錯誤しながらとにかくがんばった。

    そんな状況でも係長はとくになにかアドバイスるわけでもなく、
    オレのやる仕事についてはミスがない限りはあれこれいう人ではなかった。

    だが、そんな係長も3年目になると異動が近いということもあるのだろうか、
    オレにいろいろアドバイスをしてくれるようになった。

    組織の中で仕事するときの考え方、今自分がやろうとしていることの他係への影響、
    将来への影響など、その仕事の持つ意味や、
    広い視野で仕事に望むことの重要性についてなどである。

    このときは、係長として当然のアドバイスなのだと思って聞いていた。
    と同時にその指導が、係長への尊敬の念を産むことになっていった。
  

    そうしているうちに係長の異動が正式に決まった。
    オレが所属している課でその他の異動者も含め、送別会を行ったときのことである。

    異動者からそれぞれ挨拶してもらうことになり、おれの係長の順番になった。

    係長は「今の係での仕事は『産む時代』だったと思う。
    新しいシステムを導入し、運用した。さらにバージョンアップを2度も行った。
    この任期の中で常にあたらしいことをし続けた。」と発言した。

    確かにそのとおりであった。そして次の一言が私の胸に突き刺さった。
    
    『そして、皆さんもご存知のとおり、一人の若者を育てた。』
    
    もちろん一人の若者とはオレのことである。
    そして、「育てた」という言葉は『成長した』という意味である。

    オレはうれしかった。いままで仕事でそんなほめ言葉をもらったことはない。

    しかも、「産む時代」と発言した中のひとつとして、
    オレのことを全員の前で話してくれたのだ。

    そして、そんなことをめったに話すような人ではないということはこの3年でわかっていた。

    さらに、係長の最後の3年目の指導がオレの今の仕事に対する姿勢や考え方のベースに
    なっており、感謝し、尊敬している。
    だからこそ、このときの発言がとても心にしみるものになった。
 
    こんなこと、普通の人にとってみればたいしたことではないかもしれない。
    しかし、オレがひそかに尊敬していた上司からこのようなことをいってもらえた
    のは本人にしかわからないうれしさがある。

    係長、いままでありがとうございました。





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