■ 【人生とお金】 「お金がお金を呼ぶ法則とは何か」
   
 “金は天下の回り物”とは誰もが知る格言だ。
    しかし実際は、ある所にはあり、ない所にはない。
    その“ない所”にいる我々にとって、お金がお金を呼ぶなどという
    夢のような状況がありえるのか?
  
   ──そんな“そもそも論”はひとまず置いて、お金の“ある所”
  にいる方々にお話を伺ってみた。

  東京の新宿・歌舞伎町の“不動産王”ポーウェン・リー氏(59歳)は、
  「1億円稼ぐならいつでも可能だ」と事もなげに言い切る。
  「年収3000万円を目標にしても1500万円で終わるが、同じ体力知力
  で10億円を目指せば2億円、3億円はいく」
 
  意外や、過去に年間の給与として最も多く手にした額は2400万円。
  「5年間貰ったけど、馬鹿らしい。

    半分は税金で、そこからさらに住宅ローンや食費・学費なんかを
  支払う。これでは金持ちにはなれない」
 
  だから、今は給与なんて500万円あれば十分だ、というが、枯れてしまったわけではまったくない。

 「創業後は体で稼がなきゃならないけど、ある程度まで財を成したら実務はパートナーに任せ、
  その先はアイデア勝負。頭の中は生涯現役だけど、体を拘束されないようにしているから、
  今は楽ですよ(笑)。加えて、撤退や転換も含めて時代をどう先取りするか。大切なのはこの2点です」

  リー氏は、大きく儲けるにはシステムや仕組みが必要だと説く。システムとは商品の流通ルートだけ
  でなく、弁護士・公認会計士らプロ人脈も含めた仕組みのこと。システムがしっかりしていて、
  売るアイデアがあれば、事業の50%は成功だという。

 「そこに商品をのせる。今は時代の流れが速いから、商品の後からシステムを考えていては、
  商品が古くなってしまう。先にシステムをつくる。そこに法律が絡み、そして意思と使命がある。
  そのベースの上に商品をのせると、バーン! と稼働するんです」
 
  システム構築に必須なのが、やはり人脈である。外部のプロと手を組み、社員は人材派遣で十分、
  とキッパリ。

 「システムを考えるのは、子供が粘土や紙でおもちゃを作るのと似ています。単純ですよ。計算は
  足し算と引き算、管理するのは収入と支出、投資と借り入れ、資産と負債だけ。効率のいいものだけ
  残していけばいい。いい商品を提供すれば率は上がる」あとは度胸だけ、とリー氏は笑う。

 「手堅くいくか、大きくいくかは自分次第。その大きな壁となるのが恐怖心。絶対に取り除かなければ
  ならない。当然、失敗もします。私も8億円の投資で5億円損したことがある。でも、あくまで自己
  責任。他人に迷惑はかけない。問題はどう取り返すかだけです」

  同じ事業家の間でも、システムや仕組み構築の有無によって、大きな“格差”が生じるようだ。
 「これまでは綱渡りの連続でしたが、飛行機に例えれば上昇から水平飛行に移ったところ。
  もう落ちることはない。今後は上だけ見ていればいい」


    
淡々とそう語るシャムロック・コンサルティングの千葉豊社長(39歳)は、日本と
シンガポールを拠点に大手金融・保険会社や官公庁相手のソリューションビジネスを手がける。

「日本で事業を回して、年収2000万円くらいで何となくシンガポールに来ている若い

  IT社長は相当いますが、投資案件について話を振っても、なかなか会話がかみ合いません。事業がまだ
  不安定で、仕組みが回るところまでいってないようです」

  自然と自分より年収の高い日本人事業家たちと付き合うようになる。

 「事業家というより資産家。いくら持ってるのかわからないけど、話を聞くとケタが違う。
  マスメディアには絶対に出てこない方々。会った瞬間に、オーラというか、器のでかさがわかる」
 
  勤め人にはかなり高めのハードルではある。ただ、彼らの視野に常に入っているのはお金そのもの
  ではなく、自分が価値を置く事業であり、人との関わりである。お金を生むシステムや仕組みのベース
  はそこにある。税金ばかりかかって馬鹿馬鹿しい、という事情もあるだろうが、お金じたいを目標に
  追いかける心持ちでは、どうやら大金とは縁遠くなるものらしい。

  ■「貯め方」よりも「使い方」が大事

  では、お金を“呼び込む”ような人や事業との関わり方とはどんなものか。
 「貯めることに腐心するより、自分の価値観に沿って気持ちよく使っていくことで、自分の周りに
  お金のフローをつくっていく。そして、いつも自分がいい感情を持つように努力する」
 
  独立系ファイナンシャル・ドクターの北川邦弘氏(55歳)は、自身の心がけをそう語る。

 「アメリカで、宝くじで大金を手にした人の10年後を追跡調査したら、ほとんどの人が当選前と
  変わらぬ生活に戻っていたそうです。いくらお金を持ったところで、その人の器量に見合う額しか
  残らない。大切なのはお金で何を実現したいのか、どういう感情を手に入れたいのかということです」

  北川氏は、二代前から実業家。幼少時から激しい浮き沈みを経験してきた。

 「昔の私はものすごく嫌な奴でした。成金志向というか傲慢で、自分の感情を犠牲にしてでも金を
  儲けよう、増やそうとしていました。子供は女房に任せ切り。何億円も稼ぐほうがおまえらのために
  なるんだ……という感じでした」
 
  一時は約100億円の資産を持ちながら、バブル崩壊ですべてを失い、
  数十億円単位の借金に苦しみ続けた。
 
  44歳のときにファイナンシャル・プランナー(FP)へと転職したのが、大きな転機となった。

 「お金持ちにお会いする機会が増え、その習慣や考え方と身近に接し、多くを学ぶことができました」

  なかでも衝撃を受けたのは、何人かの裕福な米国人FPとの出会いだった。

 「何の得にもならないのに、米国の自宅に招き、寝室まで見せ、食事も奢ってくれた。グアムで
  毎年ホームステイさせてくれる米国人も。なぜそんなに親切なのかわからなかった。

  聞けば“It's my pleasure”と言う。以前の私なら『何か魂胆がある』『絶対油断するな』で
  終わりだけど、そんな頑なな考え方が一つ一つ氷解していきました」
 
  金持ちの余裕といえばそれまでだが、「他人を喜ばせるのが喜び」という価値観そのものが、
  北川氏の眼には新鮮に映ったようだ。

  お金の「貯め方」については誰もが関心を持つし、ノウハウも数多い。しかしいくら貯めても、
  安心する日はまずこない。「お金にしがみつくとお金が澱み、行動も防衛的になる。

  お金は貯めるためだけではなく使うためにある。貯め込むだけでは、お金は働きません」と
  北川氏は言う。より関心を持つべきは「使い方」。
  その基準は自分の価値観、「自分は何をすればいい感情を持てるか」に拠る。

 「何も考えずに『使いたいから使う』という無意識の連鎖に任せてしまうと、人はお金の奴隷に
  なってしまう。なぜ使うの? と自分を問い詰め、見栄や中毒といった“使っちゃう理由”に
  気づくこと。そこから初めて、社会貢献や自己実現という選択肢が生じます」
 
  ただ、それをはっきり自覚している人は多くないし、お金を出す不安や恐怖とも戦わねばならない。

 「きれいごとを、『本当はお金が欲しいんだけど』という自分の本音をバックアップするために使っても
  いい。それをいえるくらい価値の高い人間だと思い込めば、そのうち本物になります。
  どんな人間も最後は働きたくなる。他人の役に立ちたくなるものです」
 
  事業にせよ何にせよ、こうして見出した自分の価値観に沿ってお金を使うことで自分にいい感情が
  生まれ、周囲の人の、ひいては自分への実入りも含めたお金の流れの円滑化に繋がっていくのだ。

  お金は天下の回り物……単純にして、なかなか奥の深い格言である。

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