■ 【賢者的考察】 「グローバル社会の中で ” 日本 ” を考える」
日本企業の株価が上昇する中、多くの大企業がリストラを行なっている。 パナソニックやシャープ、ソニーなど、歴史ある日本の錚々たる大企業が、 数千人単位のリストラを発表している。 2012年の上場企業のリストラ実行企業は約50社となり、関係各社や 取引先も含めると、その数は計り知れない。 社員を自主退職に追い込むための追い出し部屋も話題になった。 経済状況の激変は、製造業のみならず、様々な企業に波及する。大企業をクライアントとして抱える、 日本最大手の広告代理店・電通も、企業の出稿費用削減に相まって、リストラを余儀なくされている。 これが、ある側面から見た日本の様相である。 ではなぜ、このような事態を招いているのか。専門家による所論は様々あるように、 原因はひとつではないはずだ。 しかし、その問題の根本的な部分を特定し、解決せずには、企業の懸命なリストラクションや、政府の 一時的な金融政策も、暫定的な措置としかならない。あえぎ続ける格好となる。 本質的な問題は一体どこにあるのか。 「日本」をけん引してきた製造業を例にとってみよう。 ご存知のとおり、日本製品は、グローバルマーケットでも「Made in Japan」と評され、高い品質力、 技術力を示してきた。また、想像力を以て、利便性に富んだ製品を多数輩出してきた。 しかしながら、現在は、この技術力が、日本のオンリーワンでなくなった。他国である韓国や中国、 インドなど、技術の発展が目覚しいからである。しかし問題はそこではない。 その他国の技術発展に伴って、世の中に同等程度の品質を持つ製品が、 「より安く」世の中に出回ってきたのである。 製品を安価に生産できる背景には、製品の費用として組み込まれる、「人件費」の安さがある。 日本や米国など先進国も、中国や他国など、人件費の安い発展途上国に生産拠点を作ってきた。 今や、その生産拠点の受け皿となってきた発展途上国が、体力をつけ、頭脳を磨き、自社ブランド の開発ができるまでに成長したのだ。 製造業務には多くの単純労働が含まれるため、賃金の安い莫大な労働市場を持つ中国は優位性を 持つことができる。 また、かつての日本を髣髴させる、ストイックさを持つ韓国が知的技術を向上させた。 このようにして、一見、同等と見える品質を持つ製品を安く作ることが可能になった昨今、日本より、 製品の「価値」を向上させてきたと言えるだろう。 しかし、ここで面白いことに気付く。 興味深いのが、日本人が、他国の価値ある製品を購入しているのである。 言ってみれば、意識せずに、自国産業の縮小に寄与しているのである。 つまり、高品質で低価格といった、バリューの高い製品は、全世界の誰しも購入を喚起され、 国柄や歴史に勝り、購入する。 だからこそ、例えば中国では、自国の競争力と優位性の保持に向け、自国に他国製品が 出回らないよう、厳しい貿易規制を敷く。 さらに韓国では、優位性を保持し続けるため、IT産業の担い手となる開発者の兵役免除など、 国を挙げて徹底的な特別措置を行っている。 製品の価値は国籍を超える例として、米国の「P&G(プロクターアンドギャンブル)」社を挙げる。 同社は、世界最大の一般消費財メーカーであり、全世界46億人の生活者に向け、商品を提供し、 この不況にあって、2012年の10月?12月期では、大半の部門が市場シェアを伸ばし、純利益も 前年同期の2倍を稼ぎ出した。 日本が誇る家具・雑貨メーカーであるニトリ社も、なんと25期に渡り「増収増益」を続けている。 この2社は、数多の中から無作為に例示した企業であるが、業界や発祥国は違えど、 なぜ同じ現代にてここまで顕著な明暗を分けるのか。 推察するに、両者に共通するのは、完全なる「マーケットイン」の視点である。 P&G社は、「コンシューマー・イズ・ボス」という、顧客志向ポリシーとマーケティングリサーチを 最も重要視している。 つまり市場(マーケット)に入り込み(イン)、市場の形成元である生活者の視点に立ってビジネス を手掛けるといった、顧客至上主義を遂行している。 また、ニトリ社は、社是のひとつに、 「私たちは、お客様へ 品質が維持された商品をよりやすくお届けします。」と掲げている。 同じく顧客の望む価値を高いレベルで提供する、顧客志向企業である。 もちろん、この主義だけで全て好転するわけではない。 その主義を軸に、緻密な戦略とブレイクダウンされた各施策、解決すべき課題が山積する。 その立案と推進によって顧客満足を獲得することが必要なのは言うまでもないだろう。 しかしながら、何よりも大事な、ビジネスは社会のニーズに沿って拡大することを知り、決して この軸を揺るがせにせず、変化する環境に併せてニーズを柔軟に捉え続けてきたからこそ、 社会や市場が、彼らを産業のリーダーに選んだのだろう。 いわゆる、マーケットとともに活きる、卓越した「マーケティング企業」なのである。 日本の未来は、このマーケットと共に活き、どのように価値を高めてゆくかにポイントがあるように 思えてならない。 そしてここに、グローバルマーケットの中においても、他国が参入できない、日本の優位性が多く 潜んでいると思われる。 上述したP&G社をして、日本で製品が受け入れられれば全世界で受け入れられるとし、 日本を品質管理の重要マーケットとするほど、世界で一番消費者の要求が厳しいとされている日本。 その日本が育んできた「おもてなし」の精神は、相手のこと(ニーズ)を考え、満足(WIN)を もたらすことができる。 その精神は、壊れにくく、不良品が少ない日本の製品にも表れ、また佐川急便のきめ細やかな サービスも、世界では特異に写るほどで、好評だ。 高いサービスや技術力を持つ日本。そしてその背景にある「おもてなし」の精神。 ニーズを掴むのに適した私達の精神を活かし、どのように市場に合わせて価値を高めるか、 を考えていこう。
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